1997年12月31日水曜日

1997年(平成九年)

---------- 1997 ----------
一日も早くと願う去年今年
元朝や越後の酒をもう一献
茶畑の空晴れ上がる初御富士
初富士や台地はふくよかなる茶園
初富士を無邪気に歌う幼子は
初景色やっぱり富士は日本一
初富士やいつも自然体の父でした
あと一献越後の酒も三日なり
福耳の人の買いたる福達磨
冬廊下三平方の定理かな
空っ風燃えないゴミの山また山
分別を終えて始まるどんど焼
母の掌の意外に大き冬日向
平目のように布団にもぐりこんでいる
十三歳ナイフを握る春寒し
自動ドア開くや否や春一番
早春の受話器飛び出す幼声
春めくと後ろで母の独り言
春寒し前歯が少し欠けており
冬五輪始まりの鐘善光寺
聖火燃ゆ雪国のある晴れた日に
雪に集う国とりどりの長野かな
揺るぎ無き前傾姿勢雪の嶺
冬壁のしんしんしんと暮れかかる
冬夕焼とろとろ鍋を煮込む音
寒雀風に答えを聞いており
懐の奥の寂しさ寒雀
懐にある虚無とは何だ寒雀
傍若無人とはまこと猫の恋
野良猫に恋やつれなどあるものか
日本列島頭寒足熱入試前夜
つかみそこねた手摺から凍て返る
竹山のがらんごろろん冬ざるる
日脚伸ぶ手になじみきし車椅子
児の靴についてほやほや春の泥
洗礼は右の肩より春の雨
春泥や誰もが通る道なれど
踏み入るはけがれ無き者春の泥
冴え返る泣いているのは芳一か
これはまだ遊び半分春の雷
げんこつの思い出ひとつ春の雷
鼻の下伸ばし髭剃る春の朝
啓蟄や我れ難産の末なりし
春らしき名の地酒誕生祝にと
春昼のやかんの湯気のしずけさよ
牛タンの紅き一皿冴え返る
一歩ずつ一歩ずつ行け春の道
君の夢君の歩幅で春の道
いっぱしに箸を使う児日脚伸ぶ
くるくると子犬の尻尾日脚伸ぶ
電動車椅子時速五キロで日脚伸ぶ
吉とある明日の運勢四月馬鹿
取り分けてひとり足りぬと泣く苺
頬張って次の苺へ左の手
花冷えだ株価一面黒三角
春の土めがけ飛びつく三塁手
間一髪スクイズ決めた春の土
ファインプレーまっしぐらなり春の土
ヘッドスライディング青春の無我夢中
初燕初登板で初勝利
武者人形抜くことはない太刀を持つ
春昼や張子の虎が首を振る
花時の気もそぞろなる週半ば
この風は花を散らしてきた風か
この雨は花を流してゆく雨か
夜桜や夢幻のときのくるおしき
咲きゆくや桜はおくのほそ道へ
落ちそうで落ちぬ雨垂れ春の風邪
あとひとつ解けないパズル春の風邪
春の日のたらふく満ちて不況とは
春深しつづうらうらに満つ光
初燕翼は勇気だと思う
初燕街もずいぶん変わったなあ
自動車保険もうじき満期燕来る
天竜は木の町風の薫るころ
張り紙に「本日休館」山笑う
一面の茶園あらわる霧の道
人間を信じてゆけるかつばくらめ
花南天光が粒子となっている
青葉風フォークソングを口ずさむ
蝿取蜘蛛ヒョイとナイフの刃をわたる
蝿取蜘蛛そこはナイフの切っ先ぞ
五月雨や顔面肩甲上腕型
大井川渡る燕とすれちがう
腕時計はずして十年夏が来る
バス停のにわかゴルファー梅雨晴れ間
紫陽花がサッカーボールに見えてくる
引き出しの中の涼しさ月曜日
梅雨暑し街路時計が狂いおり
梅雨暑し朝から子供が泣いている
一徹にひとり芝居や梅雨深む
百合の香のいよいよ白く眠れぬ夜
梅雨重し庭を漂う蜂の肢
何事かある連なる先の蟻の群れ
青は悲しみピカソが覗く梅雨の底
何億年旅してきたる天の川
蝿叩き腕は武蔵か小次郎か
蝿叩きかまえる肩にとまりおり
囮鮎とりこにしたる竿林立
丑三つの寝汗に目覚めてはうつら
何もせず過ぎし一日迷い蟻
土砂降りのスコアボードの乱打戦
風鈴の眠りこけたる昼下がり
風鈴を扇げば余計暑くなる
川の字をはみ出す汗の膝小僧
見て一つ聞いて九つ遠花火
目に一つ耳に九つ遠花火
異国語も花火の闇に交じり合う
油照り口を開けば愚痴ばかり
朝刊の見出し重たき戻り梅雨
黒揚羽思わぬ方へ現われし
新涼や擦り傷癒えし膝小僧
むざむざと秋の蚊にくわれてしまう