2007年12月31日月曜日

2007年(平成十九年)

呼吸器と痰にあたふた去年今年
初日いま水平線を放したる
声の出ぬ魚の大口寒の入り
冬晴れやカニューレ交換かるく済み
初春のきらめき映ゆる潮見坂
冬晴れや友遠方より来る
水仙や友の笑顔に励まされ
暖冬のされども人の世の寒さ
喉笛をひゅるひゅる鳴らし寒の内
暖冬や痰を引かずに夜のあけし
母を呼ぶコールためらう寒の夜
あかぎれの愚痴聞いており沁みており
あかぎれの手に身をゆだね夜寒かな
節分や人の心の福と鬼
節分や恵方はベッドのやや左
立春や電動ベッドの押しボタン
暖冬の汗のしたたる雪の像
静物のほっと息づく寒の明け
海原は光に満ちて春早し
行き過ぎて戻りし春の迷い道
はやばやと杉の花粉の飛び始む
美しかった国の建国記念の日
走り継ぐ建国の日のマラソン
建国の日の走る人等に太鼓の音
2007年2月17日 入院
天井に春の軍艦水枕
春愁やとろけておりしアイスノン
淫洗に勃起しかかるつくしんぼ
春は点滴腹は減っても腹は張る
春雷や点滴棒の真上なる
冴え返る肺の写真に水の影
声の出ぬ口でもできる大欠伸
退院は去年と同じ日春の昼
2007年3月15日 退院
春分の湯にゆったりと身をほぐす
片恋の切なく甘く桃の花
能登地震春のようやく来たれども
春風やホームベースの土煙
飛び出してタッチアウトや春の土
野球部の手荷物多し春の雨
期待した桜ちらほら帰り道
初桜富士の裾野の赴任校
教えたり教えられたり春の道
春光や教師となりて踏む一歩
遅霜や不在者投票投函す
花時を来る訪問看護と選挙カー
春の夜やあふれ出ること山の如し
古写真五十年後の春の午後
筍が玉葱となるおすそ分け
春の雑踏唐突なる銃声
菜種梅雨地震雷火事多し
新緑や月に一度の通院日
中年のメタボリック兆候山笑う
新緑の山を削りて延びる路
こいのぼり好みの風のあるらしく
山若葉頭むずむずしておりぬ
寝たきりの髪すぐ伸びる山若葉
昭和の日白砂青松遠霞
草競馬遠くに富士の嶺霞み
上々の散髪日和五月晴れ
リハビリの手取り足取り夏来る
母の日の優しき母を怒らせて
母の日やもしも言葉が出せたなら
ケータイのメールの音や梅雨間近
五月雨や哺乳類にヘソひとつ
目薬のツツーと溢れ耳へ夏至
汗のシャツはがして汗がもう一枚
まだ浅きさざ波ほどの青田波
さくらんぼ天は二物を与えたる
愚痴を聞く左の耳へ団扇風
達筆の報謝なる文字落し文
給水を待つ人の列梅雨長し
どこからともどこへともなく青田波
大暑なりヘソはゆったり浮き沈み
呼吸器の熱き息吐き熱帯夜
蝉時雨ヒロシマ宣言蝉時雨
立秋や坊主頭に古き傷
一本の針立てて蚊の命がけ
蝉時雨長崎に鳴る千の鐘
陽炎や油彩画風の水彩画
陽炎や豆腐の上に葱生姜
日盛りの延長戦のまだ同点
大夕焼け延長引き分け再試合
炎天下田の面に実りの色確か
実るまで天を目指して伸ぶ稲穂
一球の一瞬の迷い晩夏光
球児らの汗や涙や甲子園
涼しさは処暑一日だけのことらしく
月食の月から見れば日食や
月食や種のひとつも無き葡萄
不器用に辛抱強く冷奴
生きること楽しまんかな冷奴
大臣の辞任またもやこの残暑
台風の猛烈の今ど真ん中
停電の外を台風の駆け巡る
呼吸器の管の水滴白露かな
稲架の辺のガードレールに五六束
ハードルのごとくに稲架の一並び
満月や一滴たりとこぼすまじ
長き夜の尾てい骨が目を覚ます
天高し腹に移るや尻の肉
呼吸器が秋の夜長を鳴き通す
2007年10月18日 入院
入院の窓を高みの赤とんぼ
2007年10月25日 退院

白い部屋紅葉一枝点したる
火に油注いでゆきぬ紅葉雨
干柿の歯に詰まりたる冬至雨
短日や福引三本してきたる
年の瀬の福引はずれのホッカイロ
看護師に身を清められクリスマス