---------- 2001 ----------
願いましては西暦2001年なり
明けまして何が出るやら新世紀
鬼よりも豆を怖がる歯の齢
お湯割の焼酎胃の内鬼は外
何よりも湯気がご馳走寒明り
転居先不明の葉書凍て返る
ザルとカケきつねとたぬきモリおろし
かろかろと窓開ける音四温晴れ
日めくりを忘れて四日寒戻る
寿限無寿限無夢を見ている春の椅子
ぽっぽっぽ春の歩道のプランター
春灯し酔うほどにふと父のこと
初桜空き部屋うまる下宿街
初桜二階にのっぽの下宿人
春一番七つの海と空ひとつ
春の雨開花予報の始まりぬ
ワープロの誤字を手直し四月馬鹿
飼い主に似てやや太め春の水
理髪師のすがしき手際風光る
逆立ちが好きな少年柿若葉
政治家の孫も政治家春霞
逝く春や屋台の酒のおけさ節
飲みつぶれ泣き疲れたる春の月
春の宵小皿たたけばスチロール
さもなくば春月の下眠るべし
雨音に覚めて失せたる春の夢
竹の子の歯応えほどの口答え
風を呑み雲を呑まんと鯉のぼり
鯉のぼり風は吉方より来たり
リハビリの腹式呼吸鯉のぼり
雨上がり揺れて牡丹のひとしずく
取りやめも予定の内さ走り梅雨
コーラスもビールも生がききどころ
青葉風心に響くハーモニー
大地讃頌けやき若葉のさんざめき
何もかも悟った犬の眼五月闇
首紐も首輪もいらぬ青葉風
雨上がれみんな元気になるように
得体の知れぬ事件の怖さ梅雨最中
使わない傘十本も梅雨に入る
物音のくぐもり白む梅雨の窓
紫陽花や思い違いのまたひとつ
紫陽花や心模様のつれづれに
紫陽花のガクは真四角雨しとしと
子育ての燕一途に人は如何に
父の日の花瓶は酒のワンカップ
子燕や父は東へ母西へ
昼過ぎの大工仕事や梅雨晴れ間
歩がいないその場を金でやり過ごし
湿気た煎餅に歯が怯んでいるぞ
このごろは井上陽水です今日も雨
空元気でもいいじゃないかこの梅雨空
ひげ面を撫でて洗濯物が笑う
恋しくて人恋しくて呼ぶ蛍
夏風邪のもう大丈夫らしワガママよ
Tシャツの洗い皺母の笑い皺
敬遠のできない暑さ無死満塁
後手にそおっと探す蝿叩き
蝿叩き狙いすましてそのあげく
古団扇かゆいところに手が届く
左手は団扇専属朝ごはん
蝉時雨五体にしみてすっからかん
立秋や足場の鳶の身のこなし
遠雷や時に弱音を吐くことも
炎天に球音三三七拍子
月凉し米寿を祝う宴の宵
大叔父も長寿の血筋晩夏光
塗り終えし壁の白さや涼新た
昨夜の夢思い出せずに晩夏光
秋の蚊やさしたることもなき夕べ
朝顔やお釣がお駄賃子の使い
人もビルも雑居して街晩夏
土踏まず土は記憶の中に秋
台風の予想進路や築十五年
台風に耐えし青柿五つ六つ
秋天を揺るがすテロの第一報
青天のへきれきテロのまた一機
秋風やはにかみながら従弟の子
往来の人声引いて遠囃
命五千とも六千とも秋陽濃し
パキスタンアフガニスタン秋彼岸
鰯雲飛べない鳥が空を見る
陽だまりの真ん真ん中に花オクラ
川風に大揺れ小揺れ秋桜
川上る風下る風秋桜
秋風が腹にこたえる男です
うたた寝の先へ先へとちちろ虫
栗のイガ為すすべもなくむかれたる
いが栗やあっけらかんと寝転がる
草野球芒越えればホームラン
社会科の校外授業天高し
秋晴れの相良にござる田沼侯
眉唾の投資の話冬隣
セールスの電話が二本夕時雨
山茶花真白少年の正義感
留守番の庭に侘助さしむかい
侘助や座して一言問い掛ける
秋天やここが起点の田沼道
小春日や九九を憶えて六の段
にじり寄り這いつくばって冬日向
凛として命の美学冬木立
木守柿ひとつ梢に暮れ残る
木枯しや兄弟喧嘩に割って入る
冬天のすっからかんの青さかな
冬木立人間欲を捨てられず
はて何か買い忘れたる大晦日
師走風達摩に手足無かりけり