---------- 2000 ----------
まどろみの覚めて床屋の初鏡
発つ鷹の翼は夢と勇気なり
雪国のおすそわけほど舞って来し
寒風に向かって赤い赤い頬
ワイシャツのボタンの固さ凍て返る
しとやかな雨の音なりひな祭り
一歩ずつ君の笑顔に日脚伸ぶ
捨て鉢に思いもよらぬ芽吹きあり
捨て鉢を拾う神在り命の芽
なんとなく見上げた空の雲が春
少年よ大志を抱け夏来る
カラー咲く蛇が潜んでいるあたり
美しき青葉の雫とめどなく
山盛りの野菜のサラダ山笑う
部屋遊びもう飽きており走り梅雨
ジョイスティック操り夏のハイウェー
耳鳴りの気になる朝よ梅雨近し
ユニゾンもまた心地良き青葉風
夏めくや生温かき犬の舌
髪刈って宙に燕を飛ばしけり
六月や犬はひたすら水を呑む
光ある今を輝け花南天
百合の香や耳の中まで湿りおり
小雀の迷い来ており梅雨晴れ間
梅雨晴れや緊張緩和の大見出し
好きな字は昭和の和の字さみだるる
物言えば耳の中まで梅雨じめり
一寸の段差に五分車椅子
失言や放言ばかりカビの国
失言にアイアムソーリじゃすみません
助手席で犬が舌出す夕薄暑
ひっきりなしの地震速報冷奴
合掌も正座もできぬ手足かな
冷汗が汗を押し出す震度三
月食や牛丼一杯たいらげて
朝凪や月を喰らいし夢の後
海の日や吹けよ海風もっと吹け
初蝉が寝不足の目をこじ開ける
気は心季題を涼と決めにけり
戦争も安保も知らずサングラス
ミスプリでプレミアムつく弐千円
うごめくカネとびかうマネー世紀末
いまどきのバケツへこまずすぐ割れる
炎天やこっちの雲はあぁまいぞ
花魁草しゃなりと風を受け流す
晩夏光一寸法師の影一尺
何をしに来たのか忘れ法師蝉
犬の鼻秋の気配を嗅ぎ当てり
気の滅入ることある朝も花芙蓉
新涼や答えは風の中にある
夏の夜やクラゲはどんな夢を見る
片影やふいと黒猫くらましぬ
ようようと一雨来たりさあ九月
防災訓練かたや不安の避難船
秋暑し海寄れ寄れや練屋台
人は波人は風なり船神輿
崩れては揃う足並み船神輿
手枕の天井の端キリギリス
秋深し自問自答の波の音
少年の日のトンガリ山よ鰯雲
鰯雲とんがり山を遠巻きに
観覧車ひとめぐりして秋日和
信州へ山並幾重赤とんぼ
花好きのおしゃべり好きの秋日和
少年となり少女となり秋桜
秋晴れや遥かに蒼き富士の嶺
句にならぬ月無き夜の長きこと
秋深き隣は名刺折る人ぞ
ロスタイム5分の長さ秋の夜
懸崖の草書の己の字菊花展
木守には余りあるなり柿赤く
立冬の空ひとかけら雲間より
検眼の左も右も秋曇り
茶の花や道路工夫の皆若く
茶の花や台地に鉄塔聳え立つ
小春日や改築の家の広き窓
カーテンコールの後のしじまや冬夕焼
短日や眼鏡の顔に馴染みおり