2008年12月31日水曜日

2008年(平成二十年)

苦も楽も生きてる証し年新た
駅伝の箱根を下る早や三日
介護師に身をゆだねたる初湯かな
バリカンでこざっぱりと小正月
痰引けば耳に泪の入る寒夜
呼吸器の警報響く震災忌
寒風や喉に横穴開いており
大寒や牛乳瓶の底固き
看護師は手の冷たさを詫びながら
抱き寄せるほどの力も無く冬日
河床に石累々と空っ風
北風は遥か南の海目指す
木枯らしや替えの寝間着に身をとおす
鼻声の気象予報士二月来る
オムレツに赤きケチャップ春立ちぬ
日当たりて山は微笑み返したる
天井は光の春野蝶にならん
ラッコのごとく胸に両手とカイロのせ
ネジひとつ床に転がっている余寒
ままならぬことはそのまま春の風
幸せのかたちいろいろ春の雲
春雷ひとつうつらうつらとしてひとつ
うららかや虎刈り頭を撫でられて
黄砂降るモンゴル力士の土俵入り
合格やふくらんでゆく春の空間
光の春まぶしき君の立つ姿
円高の春や日銀花いちもんめ
ガソリンは安くなったか万愚節
花時ということは杉花粉時
満開のいま絶世の花の時
川に沿い風に桜の咲き流る
咲いて散るそれだけのこと花の雨
春眠や父の夢見し目の涙
後期高齢の春や母の誕生日
春の闇黒光りして菩薩の背
痰を引く音ほど引けず菜種梅雨
新緑のよりどりみどり通院路
道なりに風流れ行く山の藤
母の日の花のむらさき濃紫
金時の腹掛けほどの柏の葉
万緑の風になってあの大空へ
緑雨のしぶき田は一面のうすみどり
初燕昼のおかずを買いに寄る
看護師の足重たげに梅雨に入る
一時に客の重なる梅雨晴れ間
手間取っておりし検査や梅雨の窓
梅雨に病んで夢は晴野を駆けめぐる
甲子園北京八月十五日
北京五輪終えて静かな夜の秋
空蝉の眼は透きとおる羽の色
空蝉や時をとどめておくチカラ
ダルマサンガコロンダみんな空蝉
呼吸器をつけダースベイダー長き夜
見えていて届かぬところ蚊がとまる
祭の夜女衆男衆若い衆
艶やかに半被きりりと女衆
千秋楽祭り浴衣の酔いかげん
祭り焼けして若い衆の笑顔かな
空蝉の過去も未来も見通す眼
空蝉にもなれずしがみついている

2008年10月6日
あゝそうだ三年前の今朝の秋
幾万のクラゲの光りノーベル賞
秋の灯や素粒子論の半世紀
わかったようでわからぬ話秋の風
秋暑しあれよあれよと下がる株
秋の蚊や左の頬をまきぞえに
過ぎたるといえど背高泡立草
黄の強すぎて背高泡立草
円高株安背高泡立草
天高し鼻の頭にかすり傷
立冬や看護師の手のやわらかし
そぞろ寒帯に短し給付金
秋の灯やチヨさんがカッちゃんに逢いに逝く
秋の夕暮れ人はすぐいなくなる
風邪をひくこともなかろうへそのごま
ラブソングあの日にかえるラフランス
池の面の紅葉をわけて錦鯉
小春日や微熱もとれて入浴日
一日の長さや年のゆく早さ
紅葉三枚幾千万のその中の
冬晴れや肩幅も背も延び盛り
信号は赤ばかりなり十二月
宅配の荷に熨斗紙や十二月
山茶花や巷に溢る失業者
レントゲン写真を透かしてみる冬至