2010年12月31日金曜日

2010年(平成二十二年)

呼吸器に御飾りつけて年迎う
新春の駅伝行くや日本橋
人間に尻尾のあとかた初湯かな
初富士や平穏無事を願いおり
切通し抜けて明るき冬の山
風花や台地越え来し風の道

如月や母の手指の絆創膏
息吸えば吐かねばならぬ空っ風
立春の水面煌めく昼の海
救われて生死のはざま凍て返る
救急の担架に氷雨一滴
担架より仰ぐ星無き冬の天
冴え返る呼吸器という命綱
着ぶくれて小さくなりし母の背や
兄妹の共に五十路の梅日和
兄妹の願いは同じ梅真白
太平洋越えきし津波二月尽
看護師も母も眠たげ春の昼
春光や受賞の知らせ読み返す
我を看る母の齢や春の雨
春嵐天に雷神地に風神
花曇り月に一度の通院日
菜の花や大地に満ちる陽の光
敷地内全面禁煙花日和
目薬の滲んで流る春の雲
ナースコール胸に抱えて春の闇
退院も悲喜こもごもや春の風
看護師の肩越し春の光降る
オルゴールのごとき雨だれ春の軒
カーテンで仕切る病室新樹光
連休の今日は何日何の日ぞ
我のため骨身削りし春母よ
リハビリの一日一歩夏へ母
人と来て後に残りし蚊の羽音
関西弁話す看護師夏近し
天井に火災報知機蚊がとまる
時間という海を漂うクラゲなる
入梅の病棟を来るハイヒール
荒梅雨や天井白き闇の底
遠雷や近くて遠き我が家なり
明日退院のベッドの上で聞く花火
退院の家路まばゆき真夏の陽
熱帯夜なれど我が家の我がベッド
炎天下延々続く送電塔
真昼野やひまわり千本うなだれて
秋暑し診察待ちのしんがりに
残暑背にまた動き出す交差点
新涼や久方ぶりの雨の音

2010年10月6日
秋の蚊の命をもらい生きており
天井に思い描くや鰯雲
柿紅葉一葉一葉の色模様
ゆっくりと生きてゆきたし彼岸花
出逢いたるふたりの夢結う秋日和
台風の去りて静かに虹立てり
山頂にベレー帽ほど富士の雪
立冬や横文字略語がまたひとつ
小春日や思わず口を滑らせる
あたたかき看護師の手や十二月
初霜やいささか熱き今朝の粥
黄落や天の光の散り積る
息吸って息吐いて早や十二月
茶の花やポツリポツリと雨の中
恐竜の化石もするやすす払い
柚子の香の身にしみいるや介護の湯
介護湯のわが身ひとつと柚子ふたつ
年の瀬や龍馬も子規も若くして