2018年12月31日月曜日

2018年(平成三十年)

初日の出先へ踏み出す力なれ
昼食のきんとん美味し二日かな
見舞人言葉選びて三日かな
病院で年を越したる吾 母よ
新玉や健康なるは宝なり
病室に成人式の晴着かな
雨上がり冬陽さしたる転院路
転院の車窓を走る冬木立
枯木立雲を掃く竹箒かな
枯木立空に毛細血管めく
リハビリの車椅子行くコンサート
ソプラノの胸に響くや冬うらら
寒風に鳴る電線やソラの音
干し柿や亡母の名前で届けらる
寒烏夜明けを待てぬ一羽かな
寒林や花咲くころを夢見つつ
大寒波固く閉じたる大手門
父母は心の中に二月くる
赤鬼は担当介護士節分祭
六十年後の節分鬼の面
春一番杉の木多き風祭
強面のほころぶ笑顔春の山
眼科医に覗きこまれし春浅し
春の雪越すに越されぬ箱根山
暖かし窓辺に寄せる車椅子
春の空飛べる気がしたコンサート
華やかに春を弦楽四重奏
青春のミニスカートや花の頃
葉桜や父母の遺伝子受け継いで
若葉風リハビリがてら車椅子
車椅子モンシロチョウに恋したる
母に見せたき御衣黄のうすみどり
支えられ生きていること風光る
風光る耳鼻科受診に向かう道
新緑の堀と白壁小田原城
全身に響くドラムや若葉光
新緑の煌めきのごとピアノの音
新緑やジャズボーカルのリズム感
新人の看護師なじむ立夏かな
入浴の順番を待つ若葉冷
看護師のくしゃみ三回若葉冷
コーラスのソロの緊張薄暑かな
失いし声を探して夕薄暑
リハビリのほぐれる手足蔦若葉
梅雨めくやコキコキと鳴る右の肩
散髪はバリカンひとつ梅雨に入る
梅雨晴れ間はらりと剥がす蒸しタオル
梅雨の闇ナースコールが鳴らぬ夢
梅雨明けの眼下摩文仁の海の青
リハビリの手足がんばれ梅雨暑し
梅雨暑しかゆいところに届かぬ手
色白でありたる母の日傘かな
初盆の母に添えたし百合の花
梅雨明けの少年の日の青き空
お二人に幸多かれと雲の峰
虹の橋二人で歩む未来かな
ミキサー食なれど土用のウナギなり
じんじんと奥歯のうずく酷暑かな
炎昼のコントラバスの響かな
炎昼やチェロを弾く手のたおやかさ
万緑やチャイコフスキーの弦楽曲
立秋や剃刀当たる喉仏
秋焼や天と地を指す平和像
真昼の静寂終戦の日の白球
芋粥や母思い出す終戦日
流灯の取りやめとなり雨あがる
花火待つ中天にある夏の月
花火見る人を見守る人ありて
中天に花火の名残り月静か
夜勤明けのハイな看護師残暑かな
行く夏や手足の爪の伸びぐあい
検温のポニーテールや涼新た
天高し男はつらいものなりし
伯父の忌や稽古仕上げの太鼓の音
伯父の忌や思い連なる秋祭り
昨夜の月伯母は静かに今朝逝けり
限りある命をおもう夜長かな
まなざしは慈愛に満ちて月明かり
亡き母の優しさ強さ秋桜
秋深し母の最後のVサイン
詫びながら君を頼りの夜長かな
秋天に六字名号母の声
母の手のぬくもり今も秋夕焼
カラオケの拍手やさしき秋日和
秋うらら猫の居場所は風しだい
湯の中の手のじんわりと初紅葉
秋の空見れた幸せ車椅子
車椅子二度目の散歩薄紅葉
秋の蚊の好みは腕のふくよかさ
出くわした猿の話や秋日和
看護師の一人日除けに秋日濃し
海見えてふるさとの秋目に浮かぶ
足浴の秋呼吸器の十三年
秋晴れや初心忘れることなかれ
ペンを持つ力も無き手深む秋
行く秋の伯母の日記や七七日忌
立冬の表情筋の硬き朝
小春日のリクライニング車椅子
天高し大っきな看護実習生
冬近し先輩風をふかせおり
古写真記憶のさきの七五三
眠たげな朝の食介冬うらら
長き夜の耳にやさしき音枕
弦楽のしらべ夜長の音枕
晩秋の日のかたむける亀の池
日短し看護実習最終日
黒犬の毛並みつややか冬はじめ
初冬のそっと寄り添いくれし犬
添い寝するセラピー犬や冬温し
十二月色日替わりの看護服
いまだ五人の行方不明者冬もみじ
雨上がる紅葉の道を車椅子
駐車違反の紙が三枚散紅葉
一声でカラスが散らす紅葉かな
廃屋のドアを縁取る蔦紅葉
紅き葉の何の木だろう鳥渡る
見覚えのある車椅子師走来る
ひときれの青空冬の散歩道
幸せをさがして冬の散歩道
風音は届かぬベッド冬至粥
冬至粥ついに無冠となりし棋士
病棟にクリスマスツリー立ち並ぶ
災いを転じて福に年歩む
改元の国を挙げての年用意
大晦日今日までそして明日から