---------- 1996
火星にも洪水の跡梅雨荒るる
梅雨明けの軒の巣仰ぐ車椅子
真っ青な海が見えたか夏燕
夏の夜の闇の深さぞ罪と罰
心まで萎えてたまるか雲の峰
炎昼や張りつく背中足の裏
水一杯のんで大の字夏畳
寝返りのうちどころ無き熱帯夜
西日影足投げ出して人心地
川の字を泳ぎ明かして夏の子よ
嫁談議いずこも同じ残暑かな
割り箸の片っ方短くて残暑
赤信号仰ぎ見る空晩夏光
瓜胡瓜茄子の浅漬けひとつ椀
幼子の一目散や獅子頭
茶柱のゆらりゆらゆら秋うらら
新涼や読み止しの本を風が繰る
したたかに生きるつゆ草日一日
忘れたくなきことひとつ春の風
熱風や忘れてならぬことありし
忘れてもいいことふたつ秋の風
冬の風忘れることのできぬこと
ひとつずつ忘れ去ること去年今年
ほくほくと箸の先より栗御飯
秋の夜の句集の余白深まりぬ
父の忌や瓶に一枝山桜
コスモスにさそわれるまま車イス
風に揺れ地雷の上の花野かな
いざり来て仰げば貴し今日の月
ことごとく風のとりこよ秋桜
小春日や今日もきのうもおとといも
この枝のここに今年も子守柿
散髪の窓際の椅子菊日和
身にしむや日に日に紅くピラカンサ
萎えし手の指のささくれ冬めく日
松切られ吊り下げられて時雨中
時雨るるや老松切らるる小半時
爪先で引き寄す行火夢の端
深々と光さしけり冬廊下
湯豆腐のいつも舌灼く一口目
焼いもを割ればこぼるる笑みふたつ
寒がりのくせに薄着で冬木立
冬木立こわばる手足もてあます
年越しの湯船にのばす手足かな
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