2011年12月31日土曜日

2011年(平成二十三年)

新年やせめてなりたし聞き上手
ベッドから見えるところに輪飾りも
新婚の二つの笑顔年初め
初夢の落ちてきそうな棚の上
新玉やどんな出会いがあるだろう
小寒やくじけないでという詩集
冬ごもりして陽水を聴いており
苦しさに目覚め寒夜の母を呼ぶ
丸坊主に散髪済ませ春を待つ
節分やこれもくじ運鬼の役
一雨を待ち一雨を待ち立春
春浅きあごにカミソリ負けの跡
豆腐にはなりたくはなし針供養
三寒の無事保護されし尋ね人
枝垂れ梅したたる先の五六輪
布団から左手を出し寒の明け
春雷や楽観主義者の顔をする
何事もなく春の一日誕生日
春寒のなすすべもなき大地震
うちよする津波にさわぐ鳥の群れ
幾万の行方不明者春彼岸
卒業の校歌唱和す震災地
大津波残りし松や梅桜
瓦礫の山かき分け行くや春の道
東北の復興祈る春灯し
生きている陽はまた昇り春が来る
木彫り雛小さき目鼻の富士額
後ろから声かけられしチューリップ
春霞そこに存在する原発
行く春や成さねばならぬことばかり
早緑は未来の色や茶の台地
花水木この青空に会いたくて
さりげない心づかいや花水木
夏に入る看護師どこさ熊本さ
病窓一枚外は五月晴れの町
病室のカーテン帆のごと初夏の風
子育てにあの手この手の親カラス
病院に巣立ち間近きカラスの子
病院を巣立ち間もなきカラスの子
病院を巣立ちおえたるカラスかな
金色の夕日ベッドに溶融す (ようゆう)
病窓より見ゆ映画撮影風光る
五月雨を待つや待たずや映画ロケ
風薫るころや自発呼吸をもう少し
病棟の節電工事夏はじめ
青葉光われも光合成してみたき
シャワー浴終えてすっきり五月晴れ
雨上がり素直な笑顔に会う五月
交代の看護師の来て夕日背に
初夏の風一期一会を繰り返し
剃り残し髭が一本梅雨に入る
この国のこの曖昧さ梅雨寒し
車椅子行きつ戻りつ梅雨晴れ間
梅雨空や喉にたまりし痰の音
正体は看護師髭面アロハシャツ
梅雨晴れの洗濯日和や風の午後
手術無事終わりたるよし青葉光
本日のデザートゼリーの紫陽花風
青嵐声を失くしたもどかしさ
梅雨はいつ明けるやシーツ交換日
病窓に時に陽のさし梅雨長し
寝不足の頭の中も梅雨の空
窓越しの空重たげに梅雨模様
小便の出たがる日なり梅雨深し
濃紫陽花咲く退院の道すがら
身の内にちからまだある限り夏至
看護師のしたたる汗を拭いつつ
心頭滅却などできずこの猛暑
海開き水平線を飛び跳ねて
震災を乗り越え届くさくらんぼ
さくらんぼサクサクランランポッと種
山頂は雲に隠して山開き
昼食を二口三口半夏生
梅雨暑しカードゲームの勝ちと負け
デイケアに笑顔と笑顔出会う夏
梅雨明けやすでに夏バテしておりぬ
夏草に包囲されたる駐車場
緑濃く夏深々と山の影
万緑や我を抱き上ぐ腕力
青田風ホップステップ大空へ
介護士に胡瓜食む音ほめらるる
右巻きのネジ台風は左巻き
立秋や完敗惜敗甲子園
枕辺に音色いろいろ花火の夜
熱帯夜明けて猛暑の通院日
炎天下帰省の人と避難人
悠然と雲高々と秋に入る
万緑や目に見えざりき放射線
手に汗と生命線を握りしめ
還暦すぎしフォークシンガー晩夏かな
薬飲む水をコクリと夜の秋
面倒なローマ字変換残暑かな
台風より一足早く入院す
台風の中を苦も無く鳥の群れ
鳥の影霧を出てまた霧の中
台風過ぐ思いもかけず法師蝉
朝焼けや海辺の町を秋の色
秋暑し思いどおりにゆかぬもの
秋暑し明日は明日の風が吹く
秋暑し昼中点きし常夜灯
秋風やいつの間にやら無精髭
名月や一本松の立ち姿
被災地に頭を垂れる稲穂かな
秋入日昔々のクレヨン画
手のひらを開いて放つ秋の風
2011年10月
コスモスや答えは風の中にある
星々のひしめく星団柘榴の実
子をさとす声は涙に柘榴の実
弟よ待て弟よ秋夕焼け
秋晴れのこの青空を見ているか
天高く磨き上げゆく窓の空
心せく十一月の空青く
はやるものすたれゆくもの文化の日
喉の管変えて秋風すっと入る
ただ祈る祈るほかなき秋夕焼け
秋雨の先の見えざる窓がある
目薬のあふれて耳に秋時雨
秋の空ここにもおりし雨おとこ
秋の雲どちらに動いておるのやら
風の来し方雲の行方や秋深し
病室に浮世離れて行く秋や
この思い我もさせたや深む秋
雨風を押し立て来る十二月

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