2017年12月31日日曜日

2017年(平成二十九年)

元朝や人恋しくて鳴らす鈴
うたたねの覚めてうたたね二日かな
年始の子泣いて笑っておめでとう
松過ぎて母の治療の続きおり
大寒波金星力士の息荒らし
大寒のみそぎのごとく髪を刈る
冬晴れの磨き上げたる空の青
節分の邪気流したる介護の湯
立春の焼き立てパンのふっかふか
病室は西館四階春浅し
面会人のひそひそ話冴え返る
退院の一日延期春の夕
揺れるカーテン心揺れやすき春
呼吸器の気泡ぷくぷく 春の水
春一番良いことだけを考える
紅梅や凛として風の後先
春の雲青空からのメッセージ
誕生日母から電話あたたかし
春光に包まれているストレッチャー
春雷や弱気の虫が顔を出す
「そんたく」とは何のことやら鳥曇り
かんざしのごと一枝の椿かな
春寒し今日も微熱のとれぬ母
春時雨行くか戻るか道半ば
デイケアに招き入れたる風は春
満開の老桜母の誕生日
デイケアのお色気話春の昼
春昼のうたたね寿限無寿限無かな
行く春や自国第一主義世界
出来たての坊主頭や茶摘み時
青嵐炎逆巻く火事多し
黄砂降るシルクロードの彼方より
左手にまだ力ある立夏かな
母の日や声に出せないアリガトウ
デイケアの避難訓練青葉光
喉を過ぐ吸い飲みの水風青し
梅雨近し舌に引っ付くカプセル剤
ブルーシート架けられし家梅雨に入る
走り梅雨過ぎゆく時の速さかな
空梅雨の河原を前に川漁師
空梅雨の招かれざりしヒアリかな
生シラス少し弱まる雨の音
梅雨の天井音もなく蜘蛛の脚
七夕や大きく育てパンダの子
転院の母の一日や梅雨晴れ間
デイケアの朝の日差しと蝉しぐれ
かき氷おしゃべり好きと聞き上手
梅雨明けや母は笑顔でVサイン
炎天を突く煙突の避雷針
病窓の間近飛び交う夏ツバメ
看護師の髪留め琥珀色の夏
看護の手浴衣に着替え踊りの手
看護師の元気な声よ夏の朝
竜宮城を後に家路の陽炎や
終戦の日の甲子園雨しきり
日の残るレフトスタンド夏の果
拭っても拭っても拭いきれない猛暑かな
ベッド脇に挟まるお尻残暑なり
呼吸器の設定終えたる残暑かな
ミサイルが日本上空行く夏や
吊り上げて量る体重雲の峰
遠雷やナースコールをへその上
爪を切る静かな時間夏の午後
横顔の耳うつくしき晩夏光
食堂へベッドでドライブ秋近し
好物のとろろご飯や大夕焼
台風の気配まだなき空青き
秋曇りそれでも核とミサイルか
病室のカーテンを透く秋の朝
退院の秋の気配の家路かな
祭囃子ときおり秋の雨の音
船若に英語教師や秋祭り
秋祭りカラリと晴れて千秋楽
夕食を少し残すや秋暑し
深海の夜の長きを生きており
秋暁や北斎の富士ここにあり
秋風やデイサービスの送迎車
秋うらら二番の歌詞がでてこない
秋一日袋一杯松ぼっくり
秋暑し痰引ききれぬ吸引器
灯り消し心音と秋雨の音
見舞う吾を励ます母や秋の雨
ずっと握っていたい母の手秋深し
「がんばろうね」母の一言身に沁むや
秋暁や永久の眠りの母帰る
秋雨や声は出ぬのに出る涙
母に感謝母の代わりに感謝の秋
恋しきや母の手料理秋の暮
秋冷の母の作りし肩掛けや
逝く母の優しさ強さ天高し
晩秋や流れて来たる「涙そうそう」
小走りに来たる看護師小春かな
のっしのっしと来たる介護士天高し
壁一枚へだてし命秋惜しむ
立冬やコーヒーゼリーに銀の匙
口パクで伝わる言葉小春かな
七色の声の看護師菊日和
秋晴れやしゃべくり看護師現る
秋晴れのマスク美人の素顔かな
着やせ形着ぶくれ形の白衣かな
新しい呼吸器試す冬めく日
体重の一キロ増えし冬隣
冬晴れや四方に配る介護の目
短日の早やひと月の過ぎにけり
食うことが仕事勤労感謝の日
日影れば紅葉燃え尽きたるごとく
看護師の冬荒れの手や母のごと
初冬や母の眼鏡をかけてみる
胸に置くタオルに母の名小春日や
冬日射すスレンダー美人の腕っぷし
冬日向一見白衣の柴田理恵
丸顔や鍋が恋しくなりし頃
冬の日や笑めば意外と可愛い眼
冬うらら子猫のような話声
またひとつ片思いして冬夕焼
冬晴れや流れる雲の影速し
去りがたき竜宮城や日短し
冬の日や叔母とひととき母のこと
冬空に母の面影七七日忌
治療歯の抜け落ち母のいない冬
病床の前頭葉に冬日射す
レントゲンこれも被ばくや寒波くる
木枯らしや住処探して西東
木枯らしや我が家いつしか遠くなる
星ふたつ寄り添うようにクリスマス
転院の段取りすすむ師走かな
病棟のいつもの日課年の暮れ
ここにきて我が家恋しき大晦日

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