2005年12月31日土曜日

2005年(平成十七年)

---------- 2005 ----------
精一杯生きてゆくこと初日影
左手で支える右手屠蘇一献
太巻に負けじと大口春よ来い
立春と試し書きするボールペン
針供養豆腐に絹と木綿あり
ほんの少し滲んだ朱印冴え返る
春眠のあと五分だけ五分だけ
凍土より出でたるマンモス春の雪
筍の一斉蜂起や昼も夜も
うららかや退化してゆく両手足
燕来る右から左へ読む看板
飛びたくて飛びたくて燕の子は燕
連休のじっとしている軒燕
歯を入れて母はハハハと夏来たる
薫風に免じて逃がす蝿一匹
大海に迷いし鯨若葉冷え
梅雨空をかっ飛ばしたるツーベース
土俵際こらえきれずに五月雨
暗証番号思い出せずに梅雨曇り
日盛りの匂いの開く回覧板
冷房の冷たさばかりじゃない通夜の席
梅雨晴れ間にょきっと少年立ち上がる
梅雨晴れ間難病治療の遠き道
巣燕の巣立ち間近の胸真白
夏草の深みにはまり車椅子
日盛りの匂いをまとい帰りきし
錦秋の世界にひとつ相良町
灯火親し生まれ育ちし相良町
名月や未来は過去の積み重ね
月光の砂に染み入る涼しさよ


2005年10月6日 入院
授かりて助けられたる命の秋
呼吸器の向こうに深き秋の空
コスモスや看護の腕のたくましさ
短日や一食二時間流動食
右左また右向きに秋夜長
虫の音のごとく呼吸器鳴りだせり
息つけば何か食べたし鰯雲
癒えつつも時に不安の時雨空
お見舞いの人の身なりの秋めいて
がんばれとハロウィンかぼちゃが叫んでる
がんばるとハロウィンかぼちゃに目で答え
ハロウィンや南瓜の小豆煮目に浮かぶ
食欲の秋ぞ試しのいざ一口
枕辺のラジオから富士初紅葉
昼食の二品増えて文化の日
鼻の管するりと抜けて天高し
小春日や舌にお粥のほの甘く
入院のはやひと月か秋入り日
入院のふた月目に入る時雨窓
念入りに鼻の掃除して立冬
食べられることの幸せ秋うらら
命看るナースルームの秋灯し
カーテンの仕切る夜の更け深む秋
風音の冬めく力強さかな
生きるとは息をすること秋深し
さあ今日も呼吸訓練秋晴れよ
晩秋へあせる心をなだめつつ
病窓の曇天重く冬近し
埒もない愚痴をこぼして行く秋や
洗車のごときシャワー入浴冬隣り
晩秋の海静かなり船ひとつ
晩秋や浦島太郎になりそうな
風の音のはたと止みたる茜空
風止みて病窓染める茜空
冬めくや雲のちぎれて二三片
休みなき病や勤労感謝の日
休みなき看護や勤労感謝の日
欲出せばきりなく冬の空遠く
夕焼けの雲を紅葉の山とみゆ
月日は早し遅遅として冬一夜
息で手を温め夜勤のナース来る
病棟の移動の話冬隣り
ストレッチゃーぐるりと曲がり冬廊下
いつものように体位変換鳥渡る
暮れ残る銀杏一樹の辺りかな
し忘れたこといろいろと十二月
生かされて秋から冬へ来たりけり
スプーンを指で操り冬朝餉
寒風に磨きぬかれた空の青
黄落や重ね重ねの親不孝
病窓に冬めく木立散髪す
黄落や耳のうしろを風の過ぐ
木枯しのこの道父も歩みたる
父もまた通りたる道冬木立
退院の道筋想う冬一日
凍てし夜の背に暖き看護の手
木枯らしを聞きつつ痰を引いている
初氷胸にひやりと聴診器
木枯らしやわずかに痰の引ききれず
山枯らすほどに音立て冬至風
母の味冬至かぼちゃのしょっぱさよ
リハビリの右肩痛し冬木立
病食にチョコレートケーキクリスマス
クリスマス十人十病祈りおり
少年の明るき未来冬日さす
年の瀬の曇り空にも光あり
早口でしゃべくるラジオ大晦日

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