新年を迎えられたる深呼吸
もういくつ寝ると退院新暦
三が日過ぎて入院はや三ヶ月
胃腸薬今朝も三錠七草粥
ここいらでちょっくら一服松の内
志もちつづけたし小豆粥
大寒やひとりとなりし四人部屋
天井に火災感知機冬夕焼
冬晴れやワンワンと鳴くぬいぐるみ
入院の爪のびてきし冬の月
吹きすさぶ風に負けるな冬木の芽
退院へ不安も少し春立ちぬ
早春の家路や光やわらかき
しずしずと春のおとずれ雨の音
リハビリの足上げ伸ばし春の空
退院の日を待つばかりつくしんぼ
雪嶺を彼方において春来たる
雨に耐え風にも耐えて木々芽吹く
退院はいよいよ明日春の雪
早春の牧之原市へ退院す
2006年3月15日 退院
ベッドにもいつしか慣れて八重ざくら
花冷えや訪問看護の話しぶり
春風をつれて訪問看護来る
訪問看護婦と餡子の話し春うらら
春うらら訪問入浴夢心地
産湯めく訪問入浴春うらら
喉元に管押し入れる立夏かな
2006年5月16日 入院
車椅子押す手優しき若葉雨
見えるのは曇り空だけホトトギス
ホトトギスいくつに見えると問われたる
病室を移る日の朝初ツバメ
病室の軒をかすめて初ツバメ
空模様気にしつ見舞う走り梅雨
病棟も青葉若葉も霧の中
五月雨や水洗トイレの水の音
車椅子胸いっぱいに皐月風
露晴れ間名が出てこない顔見知り
みどり児の寝顔すこやか若葉風
草笛や少女のごとき頬の色
五月雨や水族館めくガラス窓
五月雨の渡り廊下を引き返す
五月晴れ飛び立てそうな向かい風
五月空頭空っぽにして仰ぐ
悩んでもしょうがないなあ五月晴れ
せわしさを笑いとばして梅雨晴れ間
青葉風山かけおりてかけあがる
喉の管取り替えおえし衣更え
水無月の竜宮城を退院す
2006年6月2日 退院
鳥たちて農夫が一人青田かな
海へ落つ弾道ミサイル梅雨荒るる
梅雨晴れや訪問看護の来る時間
梅雨の夜や時計の針の動かざる
一口ひと口含めてもらう萩の餅
洪水の軒を離れず飛ぶ燕
熱帯夜眠れば怖い夢を見る
刈り上げるバリカンの音梅雨明ける
病棟の朝が始まる蝉時雨
手作りの鈴の音涼し奥ゆかし
秋暑し抜き差しならぬ喉の管
冥王星種なし葡萄に種がある
栗の実や髪ふさふさの男の子
ささえられ見守られつつめぐる秋
かたわらの句帳の上に柿ひとつ
柿鈴なりや通院の道すがら
どっちみち背高泡立草の道
声変わりしてくる頃や柿紅葉
呼吸器の眠れずにいる夜長かな
老眼や栗に見えたる芋御飯
薄紅葉紅一途の茎の色
手のひらの紅葉冷たき微熱かな
おおらかな句風でありし冬の雨
吟詠の耳に残りて冬の雨
冬の雨句座にぽっかり穴があく
年の瀬やかゆいところに届かぬ手
痰引いてアイスキャンディークリスマス
水仙のその明るさのまぶしさや
除夜の音をかき消す呼吸警報音
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